職業柄、教える仕事をしているが
いつも「この一言は、目の前の人には
届いていないだろうな」
と思って話をしている
こういうと「そんな投げやりな」と
思われるかもしれないが
その前提が努力を可能にしている
というお話です。
コピーと貼り付け
パソコンを知らない人の「コピー」は大概の場合は「コピー機」だ。
コピー機がなかったころは「コピー」という概念を理解させるのも難しかったと思う。もうかれこれ数十年前の笑い話になるが、FAXで息子のところにスルメを送ろうとした母親が居たという話(笑)今なら、FAXの概念を説明するほうが難しいかもしれないけど。
さて、コンビニ等でコピー機を目にしたことはあるだろうから、「コピーの概念」を説明するのに共通認識として「コピー機」を用いるのは自然だ。ところが、ここで文脈(どういった場面でこの言葉を使っているのか?)が大切になってくる。
コピー機において「コピーボタン」を押すと、複製された紙が出てくるところまでが「コピー」だ。でも、パソコンを知っている人の「コピー」は情報をパソコンに記憶させるところまでがコピーで、外に出す(複製を作り出す)ところは「貼り付け」という作業になる。
コピー機で言えば、天板を開けてコピーしたい資料を置いてコピーボタンを押したことにより、資料の読み取り装置が天板上の資料を読み取って一時的に記憶している状態がパソコンの「コピー」ということになる。
そして、一時的に記憶しておいた資料を、紙に転写するのが「貼り付け」という作業になる。
つまり、言葉の意味(というか範囲)が違うのである。
文脈が違うと、まるで違った意味になる。
テクノロジー業界は入れ替わりが激しい。だから、言葉というのは常にどんな文脈で、どんな意味で用いているかを確認しなくてはならない。
そして、初心者ほど、その分野の言葉を自分の知っている言葉に勝手に変換して伝えます。だから、ネホリハホリ聞くように思われるかもしれませんが💦、それは教える側の立場としては「状況を理解したい」ということの現れなんですね。
よく、「パソコンから警告が出ているのですが、放っておいて大丈夫ですか?」というものがあります。または、「ウイルスに感染したんですが、どうしたらいいですか?」というご質問。
申し訳ありませんが、これだけだと判断はできません。まずは、見せてください、となります。「偽警告」の可能性もありますので。
自分の世界にないものは理解できない
先ほど、「初心者ほどその分野の言葉を自分の知っている言葉に勝手に変換して伝えます」と言いましたが、これって当然なんですよね。
自分の知っている世界にないものは人は理解することができませんから。そして、自分の知っている世界と、自分のまだ知らない世界の界面にある事象だけを理解していくことができます。
この界面というのが、自分の知っている世界の知識を使って、自分の知らない世界を知るという方法です。ちょうど、さっきのコピー機の例えを使って、パソコンのコピーと貼り付けを理解するようなものです。
だから、コピー機を知らない人は、コピーと貼り付けの概念を知る前に「コピー機」を知ったほうがいいのです。これが知識体系というやつですね。
読書も同じ
ちょっと難しい話になったのですが、実は読書も同じく「界面」の事柄しか理解できないのです。
だから、本を読む習慣がない人が、読書家の意見を取り入れて「この本いい本だったよ!」という本をうのみにはできないのです。なぜなら、理解可能な界面の位置が読書家とあなたでは違うからです。
勉強家の人の読書方法を見てると参考になるのですが、そういう人は、同じ分野の本を10冊とか読みます。
最初は、「漫画でわかる○○」とか。そこから、「入門○○」、そしてより専門的なテーマの本に入っていきます。これ、界面を広げているんですね。
私は「楽読」という速読スクールをやってるんですが、本を読めないって人に本当は一番必要なのは、本を読むスピードではなくて「本を読み切ったことがある」という経験なんだと感じています。なにしろ、私が本をよみきったことがありませんでしたから。
でも、本を読み切った経験を「速読を習っているんだからできるようになる」という、思い込みが醸成されていくことで、現実に本を読み切る経験を数冊していくことになります。
そうすると、「あ、私って本を読めるんだ」って思い始めるんですね(笑)。
まとめ:アノ人にも私にも界面で話そう
今日は、「その一言は、あの人には届かない」というテーマで、人は自分の知識の界面でしか物事を理解できないというお話をしました。
これを知っておくと、理解できない人を理解できるし、あなた自身が「自分はバカだ」と思わなくて済みます。なぜなら、界面を広げることが必要だと理解できるから。そのために本を読んだり、話を聞いたりするんです。自分の界面の範囲で。
そんなわけで、自分の受け取れる世界のことを、まだ見えていない色彩の世界を広げるために、今日も本を読んでいます。ただ本を早く読むだけじゃない速読スクール「楽読」を通じて、この世界の見え方を伝えています。
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